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大阪高等裁判所 昭和31年(ナ)4号 判決

原告 久満雄こと亀田熊尾

被告 大阪府選挙管理委員会

主文

被告が昭和三一年九月一五日に為した「昭和三一年五月五日執行の大東市議会議員第二選挙区一般選挙における当選の効力に関する異議申立に対し同年六月二五日大東市選挙管理委員会が為した決定はこれを取消し右選挙における当選人亀田久満雄の当選を無効とする」との裁決を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文第一項同旨の判決を求め、その請求の原因として、

(一)  原告は昭和三一年五月五日執行の大東市会議員選挙に際し立候補し二八九票を得て当選と決定された者であるが、落選候補者の一人である栗田依弘三は大東市選挙管理委員会に対し原告の当選について異議の申立をしてこれを棄却されたけれども、さらに大阪府選挙管理委員会に対し訴願をし、同委員会から主文引用のような裁決を受けた。しかして、右裁決理由の骨子は、原告の有効得票とされたもののうち「クマダ」と記された一票は、訴願人の氏「クリタ」の「リ」を誤記したものであるか、原告の名「クマヲ」「ヲ」を誤記したものであるか、を確認できないから、これを無効投票とすべく、そうするときは、原告の得票は一票を減じ、次点者大東示男の得票と同数となる結果、公職選挙法第九十五条第二項に従いくじによつて当選を決定すべき場合に当る、というのである。

(二)  しかしながら、(1)「リ」を「マ」と誤記することは運筆上あり得ないことであるのみならず、栗田は「クリタ」と読むを例とし「クリダ」と読むことはないのに反し、(2)「クマヲ」の「ヲ」は運筆上「ダ」と誤記し易いのみならず、また亀田は「カマダ」と誤り呼ばれることが多いのであるから、「クマダ」と記された前記の一票は栗田候補を指すものではなく原告を指すものであることが明かであつて、右の事実は、本件選挙立会人の全員がこれを原告の有効投票として承認したことによつても知ることができる。

と陳述した。(立証省略)

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、原告が請求原因として主張する事実中(一)はこれを認めるが(二)はこれを争うと答えた。(立証省略)

理由

原告が請求原因として主張する(一)の事実は被告の争わないところであつて、「クマダ」と記載した一票が原告の有効投票と認むべきか否かが本件唯一の争点である。しかして、右投票用紙の検証の結果並に検乙第一号証によれば、右文字は達筆明確に記載せられており、これを以て「クリタ」もしくは「クマヲ」の運筆上の誤りであると認められがたい。しかしながら、証人辻岡恵秀、松沢春治、恩智正義及び原告本人の各訊問の結果ならびに成立に争のない乙第二号証の一を総合すれば、右選挙区における立候補者中氏の後半に「田」の字を用うる者のうちこれを「タ」と読むものは、村田、栗田、平田の三名でありこれを「ダ」と読むものは福田、北田、亀田の三名であるが、「ダ」と「タ」を発音上誤用することはきわめてまれであり本件投票の記載はそのうち原告の氏亀田に対比し「カ」と「ク」はカ行の発音であり、「メ」と「マ」はマ行の発音であつて発音上もつとも近く通じやすきものであること、原告の戸籍上の名は熊尾であり、その選挙区においてもその名の前半によつて「熊さん」その氏の前半によつて「亀さん」などと呼ばれていたこと、右のような事態において原告を「クマダ」と思い違いする者の生じ得べきこと、及び選挙長のみならず開票立会人等の間においても「クマダ」の記載を以て原告を指示するものとしこれを原告の有効投票とすることにつき異議がなかつた情況を認めることができる。被告の立証によつては右認定を覆すに足らない。以上のような場合においては、右投票は栗田依弘三を記載したものでなく原告を記載したものと確認するを相当とし、これを候補者のなにびとを記載したかを確認し難いものであるとして無効として、その結果原告の当選を無効とした原裁決は、失当として取消を免れない。よつて、訴訟費用につき民事訴訟法第九五条第八九条を適用して主文のように判決をする。

(裁判官 沢栄三 井関照夫 坂口公男)

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